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東京地方裁判所 平成3年(ワ)1570号 判決

原告 沼田冬子

被告 沼田定夫

主文

被告は原告に対し、金310万円及び内金160万円に対する平成3年1月1日から支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

右主文第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

原告は主文同旨の判決を求めた。

第二当事者の主張

一  原告の主張

1  被告は原告の二男であり、昭和59年12月30日以降別居状態にある。

2  原告及び被告は、原告の生活の援助を目的として、昭和61年12月19日左記内容の本件生活費支払契約を締結した。(甲1号証)

(一) 被告は原告の生活の援助を目的として、原告の生存中金2000万円を限度とする金員を原告に支払う。

(二) 右金員の支払方法は、2000万円から契約時に支払ずみであった300万円を控除した1700万円を分割し、これに年約5パーセントの利息分を加算した以下の金額を、各年分を前年12月末日限り支払う。

昭和61年分110万円、以後平成11年分まで毎年10万円ずつ加算した金額、平成12年分は99万円

(三) 右債務は原告の死亡により消滅する。

3  被告は、右債務のうち平成2年分150万円(内訳は元金分73万円、利息分77万円)、平成3年分160万円(内訳は元金分87万円、利息分73万円)を支払わないので、右合計310万円及び内金160万円(右各金員のうち元金相当分の合計)に対する平成3年1月1日から支払ずみまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する。

二  被告の主張

1  原告主張の契約を締結したことは認めるが、締結するまでの2年間にわたり、当時居住していた関西から東京へ何度となく呼び出され、勤務先、自宅、早朝深夜と場所と時を選ばず電話をかけられ、精神的に圧迫された末に本意でなかったがやむなく締結させられたものであり、右契約は無効である。

2  被告は、原告の収入である国鉄共済年金の遺族年金のみでは生活費に余裕がないと思い、原告の生活費を補助する意図で昭和60年から現在までの6年間に800余万円を送金してきた。これを年金と合算すれば、年間生活資金は260万円ないし280万円に達し、通常の生活には事欠くことはない。したがって、生活の補助の目的は右送金により達成されている。

第三裁判所の判断

一  本件生活費支払契約の締結

右契約締結の事実については、当事者間に争いがない。

二  被告の主張1について

被告本人の供述によれば、昭和55年に被告の父(原告の夫)沼田健治が死亡し、被告が原告と一緒に生活するとの条件で同人の遺産の土地を単独相続したが、原告が昭和59年12月30日に被告方を出、以後別居している事実を認定することができる。右事実からすれば、本件生活費支払契約締結の当時、原告や被告の姉らが被告に対し、原告の生活費を負担するよう強く要求して然るべき状況が存在したものと認められる。

しかし、被告の供述によっても、本件生活費支払契約締結の過程で、原告らから被告に対し自由な意思決定を著しく困難にするほどの重大な強要等があったとは認めるに足らず、その他、右事実を認定するに足りる証拠はない。よって、右主張は採用することができない。

三  被告の主張2について

被告は、原告に対し原告が通常の生活を維持するのに必要な程度の金員を支払ずみであり、原告の生活を援助する目的は達成されていると主張している。しかし、本件生活費支払契約は、被告が原告に対し生活費の援助として支払うべき金額を具体的に定めたものであり、各年の給付額は生活費の援助として特に過大とはいえないから、親子間の扶養義務を具体化した契約としてその効力を認めることができる。したがって、被告は、右契約上の義務として、右契約に定めたとおりの金額を毎年原告に給付する義務を負うことになり、これに満たない額を給付したことを以て右義務を免れることはできない。よって、右主張も採用することができない。

なお、被告が従前原告に対して支払った金員は、訴状記載のとおり、本件生活費支払契約上の平成元年分までの債務等にすべて充当されたと認めることができ、よって、本件請求債権の弁済に充てられるべき部分はない。

四  以上によれば原告の請求は理由があるので、これを認容する。

(裁判官 中山顕裕)

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